0

マロラクティック発酵とは?ワインや日本酒への効果・やり方・しない判断基準を徹底解説

最終更新日:
ワインの味わいを劇的に変える「マロラクティック発酵(MLF)」。言葉は聞いたことがあっても、具体的な仕組みや「やり方」、そして近年注目されている「日本酒」での活用事例までは知らない方も多いのではないでしょうか。この記事では、基礎知識から、実践的な方法、あえて発酵させないケース、そして赤・白・シャンパーニュでの違いまで、重要度の高い順に詳しく解説します。
目次

マロラクティック発酵(MLF)とは?意味と乳酸菌の働き

マロラクティック発酵(MLF)とは、ワイン醸造の過程において、アルコール発酵の終了後に行われる二次的な発酵プロセスのことを指します。英語では「Malolactic Fermentation」と表記されるため、頭文字を取って「MLF」と略されるのが一般的です。一言で言えば、ワインに含まれる鋭い酸味を、乳酸菌の力でまろやかな酸味へと変化させる重要な工程です。

マロラクティック発酵の仕組み:リンゴ酸から乳酸へ

この発酵の主役は「乳酸菌」です。ブドウ果汁には、青リンゴのような鋭くシャープな酸味を持つ「リンゴ酸」が多く含まれています。マロラクティック発酵では、ワインの中に存在する(あるいは添加された)乳酸菌がこのリンゴ酸を食べ、より穏やかで柔らかな酸味を持つ「乳酸」と炭酸ガスに分解します。

リンゴ酸(Malic acid)が乳酸(Lactic acid)に変わることから、マロラクティック発酵と呼ばれています。この化学的な変化により、ワインの総酸量が減少し、pHが上昇することで、口当たりが劇的に変化します。

ワインにもたらす3つの主な効果

マロラクティック発酵を行う主な目的は、単に酸を減らすだけではありません。ワインの品質やスタイルを決定づける以下の3つの大きな効果が期待されます。

  • 酸味の柔化(減酸):刺激的なリンゴ酸が減り、温かみのある乳酸が増えることで、ワインの酸味が角の取れたまろやかな味わいになります。
  • 香味の複雑化と付与:発酵の副産物として、バターやナッツ、ヨーグルトを連想させる香り成分(ダイアセチルなど)が生成され、ワインに豊潤さと複雑な香りを与えます。
  • 微生物学的安定性:乳酸菌がワイン中の栄養源(リンゴ酸や微量の糖分など)を消費し尽くすことで、瓶詰め後に予期せぬ微生物汚染や再発酵が起こるリスクを低減させます。

アルコール発酵との違い

ワイン造りの基礎となる「アルコール発酵」と「マロラクティック発酵」は、働く微生物と対象物が異なります。

アルコール発酵
酵母がブドウの糖分を分解し、エタノール(アルコール)と炭酸ガスを作り出します。
マロラクティック発酵
乳酸菌がワイン中の有機酸(リンゴ酸)を分解し、乳酸と炭酸ガスを作り出します。

一般的に赤ワインのほとんどで行われる一方、白ワインではフレッシュな酸味を活かすためにあえて行わない場合や、シャルドネのようにリッチな味わいを目指す場合に行うなど、造りたいワインのスタイルによって使い分けられます。

マロラクティック発酵の具体的なやり方・方法と成功条件

マロラクティック発酵(MLF)を行うタイミングと2つの方法

ワイン造りにおけるマロラクティック発酵(MLF)は、通常、酵母によるアルコール発酵が終了した後に行われます。この工程は自然発生的に起こることもありますが、現代の醸造現場では品質を安定させるために意図的にコントロールされるケースが一般的です。具体的な「やり方」としては、大きく分けて以下の2つのアプローチがあります。

  • スターター(乳酸菌製剤)の添加:
    最も確実な方法です。アルコール発酵の終了後、または発酵中に、選抜された「オエノコッカス・オエニ(Oenococcus oeni)」などのフリーズドライ乳酸菌をワインに添加します。これにより、狙ったタイミングで確実に発酵を開始させることができます。
  • 自然発生(野生乳酸菌)を待つ:
    醸造所や樽に生息している自然の乳酸菌の働きを待つ方法です。伝統的な手法ですが、発酵が始まらないリスクや、予期せぬオフフレーバー(異臭)が発生するリスクも伴います。

成功に不可欠な4つの環境条件(温度・pH・アルコール・亜硫酸)

マロラクティック発酵を成功させるためには、乳酸菌が活動しやすい環境を整えることが重要です。乳酸菌は酵母よりも環境変化に敏感なため、以下の条件が揃わないと発酵が途中で停止したり、そもそも始まらなかったりします。

条件目安と詳細
温度18℃〜22℃前後が理想的です。15℃を下回ると乳酸菌の活動が極端に鈍くなり、逆に高すぎると微生物汚染のリスクが高まります。冬場はタンクやセラーの加温が必要になる場合があります。
pH(酸度)pH3.1〜3.2以上が望ましいとされています。pHが3.0を下回るような強い酸性環境(例:非常に酸の強いリースリングなど)では、乳酸菌が生育できず、発酵が困難になります。
亜硫酸(SO2)乳酸菌は亜硫酸に対して非常に弱いため、総亜硫酸濃度は低く保つ必要があります。アルコール発酵終了直後に亜硫酸を添加しすぎると、MLFは起こりません。
アルコール度数アルコール度数が高すぎる(14%〜15%以上)と、乳酸菌の活動が阻害される傾向にあります。

発酵期間の目安と管理の注意点

マロラクティック発酵にかかる「期間」は、条件が整っていれば通常2週間から1ヶ月程度で完了します。しかし、低温や低pHなどの悪条件が重なると数ヶ月かかることもあります。

管理上の注意点として、発酵中は定期的にペーパークロマトグラフィーや酵素分析を行い、リンゴ酸が乳酸に完全に変化したかを確認します。また、乳酸菌はリンゴ酸がなくなると、次に「クエン酸」などを分解し始め、ダイアセチル(バターのような香り)を過剰に生成したり、酢酸(揮発酸)を増やしたりするリスクがあります。そのため、MLFが完了したと判断したら、速やかに亜硫酸を添加して乳酸菌の活動を止め、微生物的に安定させることが品質保持の鍵となります。

日本酒造りで注目されるマロラクティック発酵のトレンド

日本酒の新しい潮流と「酸」の表現

近年、日本酒業界では甘味や辛口といった従来の指標に加え、「酸味」を重視した酒造りがトレンドとなっています。特に白ワインのような爽やかな酸味を持つ銘柄が増える中で、ワイン醸造の技術であるマロラクティック発酵(MLF)を日本酒造りに取り入れる蔵元が登場し始めました。

通常、日本酒造りにおける乳酸菌の利用といえば、伝統的な「生酛(きもと)」や「山廃(やまはい)」に見られる酒母造りの段階での活用が一般的です。これらは雑菌の繁殖を抑えるために乳酸を必要としますが、近年注目されているトレンドはこれとは異なります。ここで言うマロラクティック発酵は、主にアルコール発酵の後半や終了後に、あえて乳酸菌を働かせて酒の中に含まれるリンゴ酸を乳酸に変化させるプロセスを指します。

MLFが日本酒にもたらす効果と味わい

日本酒においてマロラクティック発酵を行う主な目的は、鋭角的な酸味を和らげ、味わいに奥行きを持たせることです。具体的な効果は以下の通りです。

  • 酸味の質的変化:刺激の強いリンゴ酸が穏やかな乳酸に変わることで、口当たりが優しくまろやかになります。
  • 複雑な香りの付与:発酵副産物として、バターやヨーグルトのようなクリーミーな香り(ダイアセチルなど)が加わり、ワインのようなニュアンスが生まれます。
  • 酒質の安定化:リンゴ酸を消費し尽くすことで、瓶詰め後の意図しない再発酵や微生物汚染のリスクを減らす効果も期待されます。

技術的な課題と今後の展望

ワインとは異なり、日本酒の環境下でマロラクティック発酵を成功させるには高度な技術が必要です。日本酒は一般的にワインよりもアルコール度数が高く、乳酸菌が活動しにくい環境だからです。そのため、アルコール耐性のある特定の乳酸菌(オエノコッカス・オエニなど)を選定したり、発酵のタイミングを厳密に温度管理したりする方法が研究されています。

また、日本酒特有の「クエン酸」やその他の有機酸とのバランスも重要です。例えば、リンゴ酸を多く生成する特殊な酵母で醸した後にMLFを行うなど、緻密な設計図を描いて造られる新しい日本酒は、和食だけでなく洋食やチーズなどの乳製品とのペアリングの可能性を大きく広げています。

マロラクティック発酵をあえて「しない」理由とメリット

酸味とフレッシュさを最大限に引き出す

マロラクティック発酵(MLF)はワインの酸味をまろやかにする効果がありますが、すべてのワインにとってそれが正解とは限りません。あえてマロラクティック発酵を「しない」最大の理由は、ブドウが持つ本来の鋭い酸味(リンゴ酸)とフレッシュさを維持するためです。

特に冷涼な地域で造られる白ワインや、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリングといった品種では、キリッとした酸味が味わいの骨格となります。ここでMLFを行うと、リンゴ酸が乳酸に変化して酸度が下がり、ワインの輪郭がぼやけた印象になってしまうリスクがあるのです。暑い地域で栽培され、もともと酸が不足しがちなブドウの場合も、貴重な酸を残すためにMLFを回避することがあります。

ブドウ本来のアロマと透明感を守る

MLFはバターやヨーグルトのような独特の香り(ダイアセチルなどの副産物)を生成します。これはワインに複雑味や厚みを与える一方で、ブドウ由来のフルーティーな香りや繊細なアロマを覆い隠してしまうことがあります。

果実味をダイレクトに表現したい場合や、テロワール由来のミネラル感を重視する場合には、乳酸菌の働きを意図的に阻止し、クリーンで透明感のあるワインに仕上げる手法が取られます。

シャブリやシャンパーニュにおける戦略的判断

世界的に有名な産地においても、マロラクティック発酵を行うか否かの判断は生産者のスタイルによって大きく分かれます。

シャブリ(Chablis)
シャルドネの聖地であるシャブリでは、伝統的に鋭い酸とミネラル感が重視されます。多くの生産者はMLFを行いますが、一部の造り手は、その特徴的な「キレ」を最大限に残すために、あえてMLFを行わない、あるいは部分的に留めるという選択をします。
シャンパーニュ(Champagne)
シャンパーニュ地方は非常に北に位置するため酸が強いブドウが育ちます。多くのメゾンは酸を和らげて飲みやすくするためにMLFを行いますが、一部の伝統あるメゾン(ランソン社など)は、「マロラクティック発酵をしない」というスタイルを貫いています。これにより、長期熟成に耐えうる強靭な骨格と、熟成を経ても失われない究極のフレッシュさを追求しているのです。

マロラクティック発酵を阻止する技術

自然界には乳酸菌が存在するため、条件が整えば意図せず発酵が始まってしまうことがあります。醸造家が「しない」と決めた場合、以下のような徹底した管理によって菌の活動を抑制します。

  • 温度管理:貯蔵温度を低く(約10〜12℃以下)保ち、乳酸菌が活動できない環境を作る。
  • 亜硫酸(SO2)の添加:乳酸菌は酵母よりも亜硫酸に弱いため、適切なタイミングで添加して活動を止める。
  • 除菌濾過:フィルターを通して乳酸菌自体を物理的に取り除く。

このように、マロラクティック発酵を行わないことは単なる工程の省略ではなく、目指すワインのスタイルのために高度な制御を行う醸造テクニックの一つと言えます。

赤ワイン・白ワインにおける効果の違いと香りの変化

赤ワインにおける効果:不可欠な工程としての役割

赤ワインの醸造において、マロラクティック発酵(MLF)はほぼ必須の工程とされています。その主な理由は、鋭い酸味を和らげること以上に、微生物学的な「安定化」にあります。

赤ワインには渋み成分であるタンニンが含まれていますが、リンゴ酸の鋭い酸味が残っていると、タンニンの収斂(しゅうれん)味と相まって、口当たりが非常に硬く感じられてしまいます。マロラクティック発酵によって酸が穏やかな乳酸に変わることで、ワイン全体にまろやかさが生まれ、タンニンの味わいとも調和します。

また、瓶詰め後に予期せぬ再発酵が起きるのを防ぐため、タンクや樽の中でリンゴ酸を消費しきっておくことが、赤ワインの品質保持において極めて重要です。

白ワインにおける効果:スタイルを決める選択肢

一方、白ワインにおけるマロラクティック発酵は、赤ワインとは異なり「造り手の意図」によって実施するかどうかが決められます。特にシャルドネなどの品種では、MLFを行うことで酸味が穏やかになり、厚みのある複雑な味わいへと変化します。

逆に、フレッシュでキレのある酸味を特徴としたい場合(例:ソーヴィニヨン・ブランや一部のリースリングなど)は、あえてマロラクティック発酵を行わない、あるいは部分的に留めるという選択がなされます。白ワインにとってMLFは、必須条件ではなく「風味の方向性を決定するツール」と言えます。

独特な「香り」の変化とダイアセチル

マロラクティック発酵がワインに与える影響の中で、最も分かりやすいのが香りの変化です。この発酵過程で「ダイアセチル」という副生成物が生まれます。これがワインに以下のような特徴的な香りをもたらします。

  • バターやクリームの香り:濃厚な白ワインでよく表現される、バターのようなリッチなニュアンス。
  • ヨーグルトの香り:乳酸菌に由来する、フレッシュな乳製品の香り。
  • ナッツやトーストの香り:樽熟成と組み合わさることで生まれる香ばしい風味。

この香りは、特に樽熟成させた白ワイン(シャルドネ等)で顕著に感じられますが、赤ワインにおいても複雑性を増す要素として寄与しています。

【比較表】赤ワインと白ワインでの扱いの違い

マロラクティック発酵がもたらす効果の違いを整理すると、以下のようになります。

ワインの種類実施率主な目的と効果
赤ワインほぼ100%実施酸味の緩和、微生物的安定、タンニンとの調和、複雑性の付与
白ワインスタイルによる酸味の調整、香り(バター香)の付与、口当たりの向上、味わいの厚み

シャルドネやシャンパン(シャンパーニュ)におけるMLFの重要性

シャルドネ特有の「バターのような香り」とコクの秘密

白ワイン用ブドウ品種の代表格であるシャルドネにおいて、マロラクティック発酵(MLF)は単なる酸味の低減以上の意味を持ちます。最も顕著な影響は、ワインの香りとテクスチャーの変化です。

MLFを行う過程で「ダイアセチル」という副生成物が生まれます。これがシャルドネに、まるでバターやクリーム、ヘーゼルナッツのような濃厚で芳醇な香りを与えます。特に樽熟成と組み合わせることで、リッチでふくよかな味わいのスタイルが完成します。

  • MLFあり:酸味がまろやかになり、バターやヨーグルトのニュアンス、オイリーな口当たりが生まれる。
  • MLFなし:リンゴ酸のシャープな酸味が残り、果実味とキレのあるフレッシュな味わいになる。

シャブリにおける酸と発酵のバランス

同じシャルドネを使用しながらも、フランスのシャブリ地区ではアプローチが繊細です。シャブリの特徴である「キレのある酸」と「ミネラル感」を維持するため、生産者によってはMLFを行わない、あるいは部分的に留めるという選択をすることがあります。

しかし、近年のシャブリでは過度な酸味を和らげ、飲み頃を早めるためにMLFを行うケースも一般的です。作り手が目指すスタイルによって、この工程を取り入れるかどうかの判断が分かれるポイントと言えます。

シャンパン(シャンパーニュ)における酸味のマネジメント

寒冷地で造られるシャンパン(シャンパーニュ)用のブドウは、収穫時に非常に高い酸度を持っています。そのため、鋭すぎるリンゴ酸を乳酸に変えるマロラクティック発酵は、味わいのバランスを整えるために伝統的に行われてきました。

シャンパーニュ地方におけるMLFの主な目的と効果は以下の通りです。

酸味の緩和と安定化
強烈な酸味を和らげ、口当たりを柔らかくします。また、瓶内二次発酵の前にワインを微生物学的に安定させる重要な役割も果たします。
複雑味の付与
熟成と共にブリオッシュやトーストのような香ばしい風味を助長し、シャンパーニュ特有の複雑さを生み出します。

一方で、近年では「ブドウ本来のフレッシュさと長期熟成のポテンシャル」を重視し、あえてマロラクティック発酵をしないシャンパーニュ(ノン・マロ)を作るメゾンも注目されています。酸を残すことでクリスプな味わいを保ち、数十年単位の熟成に耐えうる酒質を目指すスタイルです。

科学的原理:化学式・反応式および通常の乳酸発酵との違い

マロラクティック発酵の化学反応式と原理

マロラクティック発酵(MLF)を化学的な視点から見ると、これは厳密には糖を分解する「発酵」ではなく、脱炭酸反応と呼ばれるプロセスです。ワインの中に含まれる鋭い酸味を持つ「リンゴ酸」が、乳酸菌の働きによって柔らかな酸味の「乳酸」と「二酸化炭素」に分解されます。

この変換プロセスの化学式(反応式)は以下のように表されます。

【マロラクティック発酵の反応式】
C4H6O5(リンゴ酸) → C3H6O3(乳酸) + CO2(二酸化炭素)

この反応により、酸基(カルボキシ基)を2つ持つジカルボン酸であるリンゴ酸が、酸基を1つしか持たないモノカルボン酸である乳酸に変わります。これにより、ワイン全体の酸度が低下(pHが上昇)し、味わいがまろやかになるというのが科学的な原理です。

一般的な「乳酸発酵」との違い

「マロラクティック発酵」と、ヨーグルト作りなどで知られる一般的な「乳酸発酵」は、名前は似ていますがターゲットとなる物質が異なります。

  • 一般的な乳酸発酵:糖分(グルコースなど)を分解して乳酸を作る。
  • マロラクティック発酵:有機酸(リンゴ酸)を分解して乳酸を作る。

通常のアルコール発酵では「酵母」が糖分をアルコールに変えますが、MLFでは「乳酸菌(オエノコッカス・オエニなど)」が主役となります。以下の表でその違いを整理しました。

項目マロラクティック発酵 (MLF)通常の乳酸発酵 (ヨーグルト等)
基質(原料)リンゴ酸糖類(乳糖、ブドウ糖など)
主な生成物乳酸 + 二酸化炭素乳酸
目的減酸、香味の複雑化、微生物的安定保存性の向上、風味付け、凝固

クエン酸の代謝と香味への影響

マロラクティック発酵の化学的な側面で忘れてはならないのが、クエン酸の代謝です。乳酸菌はリンゴ酸だけでなく、ワイン中のクエン酸の一部も分解します。

この過程で「ジアセチル」という揮発性化合物が生成されます。これがシャルドネなどで感じられる「バターのような香り(バタリー)」やナッツのような風味の正体です。単に酸を減らすだけでなく、複雑な化学反応によってワインに厚みを与える点が、MLFの科学的な面白さと言えるでしょう。

マロラクティック発酵に関するQ&A(期間・温度・英語表記・ヨーグルトとの関係)

マロラクティック発酵の英語表記と略称は?

マロラクティック発酵は英語で Malolactic Fermentation と表記されます。ワイン醸造の現場や専門書では、頭文字を取って MLF(エム・エル・エフ) と略されることが一般的です。「マロ(Malo)」はリンゴ酸、「ラクティック(Lactic)」は乳酸を意味しており、その名の通りリンゴ酸が乳酸へ変化する工程を表しています。

発酵にかかる期間と適切な温度条件は?

マロラクティック発酵が完了するまでの期間は、ワインのスタイルや環境によって異なりますが、一般的には数週間から1ヶ月程度が目安となります。ただし、自然発生的な発酵を待つ場合は数ヶ月かかるケースもあります。

また、乳酸菌が活発に働くための温度管理が非常に重要です。以下の条件が揃わないと発酵がスムーズに進まないことがあります。

  • 温度:一般的に18℃〜20℃以上が推奨されます。液温が15℃を下回ると乳酸菌の活動が著しく低下するため、冬場の醸造所ではタンクの加温が必要になることもあります。
  • pH値:pHが低すぎる(酸が強すぎる)環境では菌が働けません。通常、pH3.2以上が望ましいとされています。
  • アルコール度数・亜硫酸:アルコール度数が高すぎる場合や、亜硫酸(SO2)の添加量が多すぎる場合も発酵が阻害されます。

ヨーグルトの乳酸発酵と同じものですか?

「乳酸菌が関与する」という点では共通していますが、マロラクティック発酵ヨーグルトの乳酸発酵では、科学的なメカニズム(代謝経路)が異なります。

ヨーグルトなどの一般的な食品加工における乳酸発酵は、主に「糖(ラクトースなど)」を分解して乳酸を作ります。一方、ワインにおけるマロラクティック発酵は、ブドウ由来の「リンゴ酸」を分解して乳酸と炭酸ガスに変える反応です。この違いを整理すると以下のようになります。

比較項目マロラクティック発酵(MLF)一般的な乳酸発酵(ヨーグルト等)
分解される物質(基質)リンゴ酸(有機酸)糖類(グルコース、ラクトース等)
生成される物質乳酸 + 炭酸ガス乳酸(+その他の副産物)
主な目的減酸(酸味を和らげる)、香味の複雑化保存性の向上、風味の付与、凝固

このように、同じ「乳酸菌」の働きであっても、何をエネルギー源として何を作り出すかという点で大きな違いがあります。

「ワイン概論」の関連記事

記事一覧に戻る
無料でワインの勉強をはじめる